大会長挨拶

第39回日本POS医療学会大会の開催にあたって

第39回日本POS医療学会大会 
大会長  渡邉 直 
(聖路加国際大学・教育センター 研修管理委員会)


 第39回日本POS医療学会大会を、2017(平成29)年8月19日(土)、20日(日)の両日、東京都内において開催いたします。歴史と伝統ある本学会の運営担当を拝命し、誠に光栄なことと存じております。
 顧問に岩ア 榮先生(卒後臨床研修評価機構専務理事)を戴き、副大会長は、事務局を担当され,長年にわたり本学会を実質的に支えてこられた小倉第一病院の院長、中村秀敏先生にお願いいたしました。
 今大会は「地域包括ケアの時代における診療記載のあり方〜今こそPOSの精神を、あらためて〜」と題して開催をさせていただきます。昨年度の大会長・井出道也先生(総合相模更生病院・院長)の御挨拶にもありましたが、2025年問題と称される超高齢社会に向け、医療機関・健診機関・福祉施設などでの連携による、有効かつ能率的なヘルスケアの供給がまったなしの懸案となっておりますが、この点においてPOSの果たす役割はますます大きいと考えます。このたびの大会でも健康情報の記載・伝達に関して、多職種の立場から提言をいただけるよう計画をいたします。また診療記載の電子化に関して統一的な枠組みが求められており、この点に関して診療情報にかかわる3学会からの合同シンポジウムも計画されます。
 今や、診療記載に関して、POS医療学会の枠組みを超えて、より広がりのある場において標準化を見据えて検討し、その中で伝統ある本学会のエッセンスが継承発展されるべきエポックに入ったと言えましょう。このタイミングにおいて、学会の今後を皆様とともに考える、そうした場にしたいと思っております。8月の暑熱の中での開催となりますが、会場内では気持ちよくお過ごしになれるようにいたします。その中でホットな議論が交わされれば、それにまさる収穫はないものと期待する次第です。どうか皆様御参集ください。楽しみにお待ちしております。

Laurence Weed博士追悼

2017年6月3日にWeed先生が亡くなりました。1924年のお生まれですので93年の生涯だったことになります。
皆様御案内の通りで、まさしく Problem-Oriented Medical Recording (POMR)の生みの親であり、Weed先生の存在なくしてPOS(Problem-Oriented System)はこの世に存在しなかったのです。
Microbiologyの分野で科学的な研究を行いつつ、臨床医として若手医師を育てる中で、Weed先生は、基礎医学の研究方法の論理性に比較してカルテ記述が、いかに不統一、恣意的、思いつき、備忘録的であるかに愕然としたところから、診療記載の標準化の重要性に思い至り、その軸として、診療において「患者の問題を上手にリストアップするところから始める」ことの重要性を深く認識され、problem-oriented の記載という基本概念を確立されたわけであります。
患者の健康問題(problems)を列挙することから医療を展開する、という方法は、単純に記載の方便にとどまるものではなく、むしろ逆に、患者の健康問題をトータルに把握する手続きを通じて診療の基本姿勢を真に涵養する、という狙いであったはずです。“Diseaseを診るのではなくillnessを把握せよ(日野原重明)。” ともすれば過度に専門分化してしまった臨床医療に対して根本的な投げかけを行う、極めて今日的意義の高い姿勢です。
さらにもうひとつのキーは、このproblemという軸を基に、診療記載をSOAPに代表される一定の枠組みの中で整理しつつ行い、その規格化、標準化によってデータベース化を促進させた、という点でしょう。1969年に出版された “Medical Records, Medical Education, and Patient Care〜The Problem-Oriented Record as a Basic Tool” は世界を席巻する診療記載の啓蒙書となりましたが、この年代にすでに診療記載の電子化、デジタル化を睨んでいた事になります。その定式化は可視化につながり、情報の共有の容易性を産み、医療の連携に資する筋道につながったわけです。 Weed先生は亡くなりましたが、その診療記載法についての方式、その基としての、患者の包括的な把握の姿勢、そして情報の可視化とデータベース化への展開は、半世紀近くを経てなお、いや、さらにその重要性を増しています。
私たち診療・ケアにかかわり、健康情報・診療情報をまさしく有用で効率的な共用ツールとして役立てたいと思っているものたちは、今後ますます、Weed先生の精神に深く思い至り、POMR (POS)を伝承し、洗練してゆくことで恩返しをしてゆかなければなりません。
ここに深くLaurence Weed先生に哀悼の意を表し、御冥福をお祈り申し上げます。

渡邉 直 (第39回POS医療学会 大会長)